企業間取引での債権回収手段~様々な担保物権~

はじめに

企業がその活動をする時、様々なものが必要になります。時間、物資、人材、そしてお金。そのお金を得る手段は様々なものがありますが、最も一般的な手段は「借りる」という行為であるといっていいでしょう。しかし、個人の経済活動と違い、企業の事業活動は桁違いの額の金銭が必要になります。数千万、数億に及ぶことも珍しくありません

そして貸した方もそれを必ず返してもらうために、なんらかの担保権を設定してきます。しかし担保権と一言で言っても様々な方法があり、その特徴を理解していなければ担保権を生かしきれません。そこで今回は、企業が債権を回収する手段としてどのようなものがあるのか、大まかに解説したいと思います。

二つの担保制度中見出し

(1)人的担保と物的担保

担保には大きく分けて、人的担保と物的担保の二種類があります。人的担保とは人が債務を担保するものであり、代表的なものとして、保証が挙げられます。そして物的担保とは、債務者その他の人間の所有する物に設定された担保物権のことです。代表的なものとして、抵当権や質権が挙げられます。

(2)物的担保の需要

この人的担保と物的担保のどちらがより、企業間で使われるのかといえば、圧倒的に物的担保になります。その理由は、企業の借入金は多額に上り、その金額を保証できる人は少ないためです。例をあげて説明すると、Aが1000万をBという企業に貸した場合、Cが保証人になると立候補したとします。

しかし、Cの全財産が100万しかなかった場合は、AはCを保証人として認めないでしょう。1000万貸して100万しか返ってこないとなると、Aにとってリスクが大きいからです。このように企業間では、金銭債権の額が大きく、その額に見合った資力を有している人は少ないため、どうしても人的担保は好まれない傾向にあります。

一方で物的担保はというと、物に対する権利であり、担保の対象が高額な不動産であれば、その価値は数千万から数億になることも珍しくありません。従って担保物権であれば、高額な取引の担保に耐えられるので、自然と人的担保より物的担保が選択される傾向になります。

物的担保の種類

物的担保には、先ほど触れた抵当権や質権のほかに留置権や先取特権などがありますが、使用される頻度が一番高いのは、圧倒的に抵当権です。その理由は、抵当権は不動産を担保に入れても、それを債権者に引き渡すことがないからです。質権も不動産に設定することができますが、質権の場合は目的物を債権者に引き渡すことが必要となるので、質権を不動産である建物に設定した場合は、その後その建物に住むことはできません。

しかし抵当権では、引き渡しは必要とされていないため、抵当権設定後も引き続きその建物に住むことができます。建物である家を担保に入れる債務者は、なるべくならその家に住み続けながら借金の返済を行いたいというのが正直なところなので、抵当権が好まれるのは当然といえるでしょう。

抵当権とは

(1)抵当権実行の流れ

抵当権について改めて説明すると、債務者または第三者の所有する不動産に設定する担保権のことをいいます。前述したように、抵当権とは設定後も債務者が不動産を使用できることにその特色があります(民法369条1項)。抵当権の実行について例を使って説明すると、AがBから1000万を借りAの所有する建物甲に抵当権を設定したとします。その後Aは期限までに1000万支払うことができなかったので、Bは建物甲について抵当権を実行します。抵当権を実行すると、甲は競売手続きにより売りに出され、一番高い金額を提示した人間に買い取られます。その買い取られた金額から、Bに1000万支払われ、Bは1000万の債権が回収できるという仕組みです。

(2)抵当権の需要

例では債権の金額を1000万としましたが、企業間の取引では数億円の金銭債権について担保を必要とすることも少なくありません。この点都心の一等地にある土地や建物は、市場価値が数億円から数十億になるものも多く、また不動産は数ある財産の中で、その価値の変動が起こりにくいといわれてきました。従って、担保される債権の額が高額になる程、不動産の担保権の設定の必要性が高まり、その中でも引き渡しの必要がない抵当権が、圧倒的に需要があるということになるのです。

抵当権に基づく物上代位

(1)物上代位とは何か

抵当権の実行については、不動産を競売手続きにより売却し、その売却金から債権を回収するのが基本ですが、それ以外に物上代位という方法も、債権回収においてよく使用されています。物上代位とは、債務者が目的不動産の売却、滅失、損傷によって受けるべき金銭等に対しても、抵当権を行使し、優先的に弁済を受ける権利をいいます。

例えば、A会社がB会社に1億円貸したとして、その担保にB会社が所有し運営する賃貸マンションに抵当権を設定したとします。そしてB会社が期限までに1億円返済できなかったときは、Aはその賃貸マンション甲を抵当権の実行により競売手続きに掛け売却し、売却金から1億の債権を回収することも当然できます。

しかし、Bの所有する賃貸マンション甲に賃料による収入があるため、そこからAは債権を回収することもできるのです。これが物上代位に基づく債権回収になります。

(2)物上代位の要件

ただ物上代位には要件があり、

①債務者への払渡しまたは引き渡しの前に、差押えを行うこと
②抵当権の登記を行うこと、の2つが必要です。

これを上記の事例で説明すると、①については、賃貸マンション甲の住居者がBに賃料を支払う前に、Aは賃料を差押えしなければならないということです。②については、第三債務者(マンションの住居者)との関係ではなくても構いませんが、他の債権者のような第三者との関係で必要な要件になります。

例えばB会社がA会社の他にC会社にも借金があり、Cが強制執行手続きとして賃貸マンション甲を差押えた場合に、その差押えの時期より前に抵当権の登記をしていなければ、AはCに対抗できず物上代位を行使できません。

従って、①の要件はマンションの住人のような第三債務者との対抗要件で、②の要件は他の会社債権者のような第三者との対抗要件であるということができます。

法定地上権の考慮

(1)法定地上権とは何か

抵当権を設定して実行した場合に、土地と建物が同一の所有者の場合は、法定地上権という制度が問題になります。というのも例えば、土地と建物がAの所有であり、その建物のみに抵当権を設定したとします。そして抵当権を実行した場合に、競売により買い受けたBがその建物の所有者になります。しかしその土地と建物はどちらもAが所有者であったため、建物には土地を利用する権利がなく、買い受け後のBの建物占有は不法占有となり、Aに対抗できなくなってしまいます。しかしそのようなことは当然許されないため、法律でBに建物を使用する権利を認めました。それが法定地上権です(民法388条)。

(2)法定地上権の必要性

この場合法定地上権が問題になるのは、建物を買い受けた者であり、債権回収を問題としている企業間では、一見無関係の問題に見えるかもしれません。しかし、法定地上権が発生する土地というものは、使用権付土地ということで市場価値が大幅に低下するため、土地に抵当権を設定し、債権回収を検討する企業にとっては、看過できない問題となります。

例えば、A会社がB会社に1億円貸していて、B会社は甲土地の上に乙ホテルを所有し、その甲土地もB会社の所有だとします。この場合にA会社は甲土地に抵当権を設定し、期限後に抵当権を実行したとしましょう。この時、甲土地は単体で見れば1億円の価値があるものの、競売後法定地上権が成立すると5000万程度まで、低下することも考えられます。法定地上権は建物の所有者にとっては、使用権が発生するため大きな利益を受けますが、土地を買い受けたものにとっては、邪魔なものでしかなく、その市場価値は大幅に下落するものといわれています。

従って法定地上権の成立により、A会社は5000万の債権額しか回収できなくなり、もし1億の市場価値を踏んでいたとすれば、想定外の損害ということになります。

(3)法定地上権の要件

従って法定地上権の成否は、債権回収の金額において大きな影響を与えるものであり、企業間取引においても担保価値の把握において、重要な考慮事由になります。

法定地上権の要件は、

①抵当権設定当時、土地の上に建物があること
②土地と建物が同じ者が所有していること
③土地及び建物の一方に抵当権が設定されてこと
④土地及び建物の所有者が競売手続きにより別の人間になったこと
、の4つです。

根抵当権

(1)根抵当権とは

以上の抵当権とは別に、包括的な債権の保証としての根抵当権というものも存在します。根抵当権とは、一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度で担保するものをいいます。今まで解説してきた抵当権には、附従性(ふじゅうせい)という性質があって、被担保債権と連動して成立したり消滅するようになっています。つまり被担保債権なしに抵当権が成立することはなく、被担保債権が消滅してもなお抵当権が存続することはないのです。

しかし、企業間の取引では継続的取引を行うことも多く、取引が成立するごとに毎回抵当権の設定を行うことは非常に不便です。従って継続的な取引等から生じる債権すべてを担保する抵当権として、根抵当権という担保権が利用されています。根抵当権は極度額という当事者間で定められた一定の金額に達するまでは、一切の取引が担保されるので、取引が成立するごとに毎回抵当権を設定する必要がありません。

(2)根抵当権の具体例

例えば、A会社がB会社にパソコンを毎月1000台売る内容の継続的な売買契約を締結したとして、代金債権の1000万を被担保債権として、B会社の甲ビルに抵当権を設定したとします。これが通常の抵当権なら、Bが1000万支払った場合抵当権は消滅し、Aは翌月また再度抵当権を設定し直さなければなりません。しかし、根抵当権の場合だと、1億円を極度額と設定した場合は、1億に至るまでその取引から生じる一切の債権を、担保できるようになります。従ってBが1000万支払っても抵当権は消滅することなく、A社は翌月再度抵当権を設定する必要はありません。

このようなことから、企業間取引において根抵当権は、非常に利便性の高い担保権といえます。

その他の担保物権

以上より企業間取引での担保権制度として、抵当権を主に検討してきましたが、その他の担保権においても最後に概観しておきたいと思います。

(1)質権

抵当権でも質権の性質について少し触れましたが、その特徴は担保の目的となって物を質権者に引き渡さなければならないことです。建物に質権を設定すれば、その建物を質権者に引き渡さなければならないので、債務者は引き続きその建物に住むことはできません。建物である家に住み続けながら債務を返済することができないため、抵当権と比べて利用が少ないことは前述のとおりです。

しかしそれは不動産に質権を設定した場合であり、質権は動産や債権も目的物とすることができます。企業間取引においても、事務所にある高価な美術品(動産)に質権を設定し、融資を受けるようにするなど、使い方によっては有効な担保権になります。

また自社に価値のある動産、不動産がないが、他社に数千万の債権がある場合には、その債権に質権を設定して、融資を受けることができます(これがいわゆる債権質です)。

(2)先取特権

先取特権という担保権はあまり聞きなれないかもしれませんが、一般先取特権、動産先取特権、不動産先取特権の3つがあります。一般先取特権は債務者の総財産が担保の目的物となり、動産の先取特権は債務者の動産が担保の目的物となります。不動産の先取特権は債務者の不動産がその目的物となります。

企業間取引おいていえば、不動産の先取特権が注目されますが、現実ではほとんど機能していません。理由は担保される債権が、不動産の保存、工事、売買から生じたものに限定され、かつその登記手続きが非常に複雑なところにあります。

抵当権という効果的かつ利便性の高いものがある以上、あえて先取特権を利用する必要性はほとんどないでしょう。

(3)留置権

例えばAがBから車を購入して、Aが代金の支払いを怠ったときは、BはAの車が手元にある場合は、その弁済を完了するまで、Aの車を留置することができます。これが留置権です。留置権には、抵当権、質権、先取特権と違い優先弁済を受ける効力がありません。つまり、抵当権等は、債務者が期限までに弁済してくれないときは、目的物を競売にかけ、その売却金から債権を回収できますが、留置権はそれができません。しかし、その車について他の債権者が強制執行しようとしても、留置権者は引き渡しを拒むことができ、それは債務者が支払いをするまで有効となります。従って留置権は、債権が回収されるまで目的物を留置することができるため、事実上の優先弁済効力があるともいわれています。

企業間取引においては、例えばA社が修理業者Bにパソコンの修理を依頼し、B社は修理を行ったが、A社が修理代金を支払ってくれなかった場合は、B社は返済までそのパソコンを留置することはできます。ただし優先弁済権はないため、Bはそのパソコンを強制競売により換価することはできません。

まとめ

以上、企業間取引を前提として担保物権について概説してきましたが、いかかでしたでしょうか。冒頭でも言及しましたが、個人間取引と企業間取引との一番の違いは、その取引における金額です。数億、数十億単位の貸し借りも珍しくなく、一回の債権回収の失敗が業績悪化に直結することもあります。

従って、確実に返してもらうために、担保権の設定は必要不可欠となります。そのためには、担保権の性質を正確に理解し、適切に実行する必要があります。多額の融資実行の際には、担保権及び債権回収に精通した弁護士にご相談されることをおすすめします。

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